入手編で書いた通り、表紙を見た直感からギャンブル買いをした本書ですが。
これがまた、とんでもない大当たり。
こんなに夢中になって読んだコミックスは数年ぶりかもしれません。
第1印象は…… §
第1印象は絵が下手、というものでした。
しかし、明らかに普通のマンガでは考えられないような、飛んでもない描写や展開が続きます。
特に、活動的で外向的なのに主役よりは脇役を望むヒロイン像は特異です。
そして、身寄りのないヒロインと弟を住まわせる家の者達のあまりに絵に描いたような残酷さは、今時こんなベタベタの可哀想な話をやるか!?と思うぐらいに突飛で驚かされます。
しかし、これは…… §
ですが、逆境にあって笑顔を忘れず、手間を惜しまずよく働き、そして他人のためにお節介というほどに飛び出していくヒロイン像は、非常に魅力的です。
そして、彼女は、孤独な者達の領域に入り込み、そして彼らを結びつけていきます。
大きな物語が失われ、倒すべき悪も明確ではない今時のヒーローとは何か、ということは考えることがありますが、その答えの1つであると言って良いと思います。
そう。それは、人のプライベートの領域にまで土足で踏み込み、失われた人の絆を取り戻すという力です。
人は孤独では生きられない生き物です。
孤独は寂しく辛いものです。
それなのに、人の結びつきがどんどん失われていく時代です。
それを取り戻すために、携帯電話や電子メールなどのメディアが使われている面があるでしょう。しかし、それらは、あまりに間接的で、あまりにもおずおずと使われています。
本当は、もっともっと直接的に相手の中に踏み込んでいく必要があるのではないか。
それが、人が無意識の領域で望む真の願望ではないのか。
そんな風に考えた時に、この作品のヒロインは、まさにそれを実現するだけの力を持った真のヒーローであると。そのような印象を受けました。
このような傾向は、宮崎駿監督の「ハウルの動く城」とも似た傾向を持っている雰囲気も感じます。つまり、ハウル並みの画期的な強い主張を実現している面があるように思います。
しかし、似ているのは §
しかし、作品の形としては、ハウルというよりは、千と千尋の神隠しの方を連想させます。ヒロインは小学生であるのに身よりもなく、弟を連れて怪しげな謎の店に住み込んで働くことになります。おそらく、このような作品の企画を立てたとしても、千尋以前ならきっと通らなかったことでしょう。
身寄りもなく、弟のために働く姉ということでは、舞-HiMEと似たパターンと言うこともできます。これは、過酷な、それでいて愛すべき重荷を背負いながらも前向きに生きる幼すぎる少女が、1つの現代的なヒーロー像であると言えるためかもしれません。そして、おそらくは豚にされた父母(途中からはハク)という重荷を背負いつつも前向きに生きる千尋の出現が契機になったのではないかという気がします。
遠い夢を語るよりも、労働を通じて目の前の暗い現実を吹き飛ばすという千と千尋の千尋、ハウルのソフィー、舞-HiMEの舞衣、そして本作のヒロイン宮前綾香らは、1つの流れとして把握しても良いような気がします。
そうだとしても…… §
そのような流れがあるとしても、その中で本作のヒロイン宮前綾香は突出した印象深さを残します。
圧倒的な熱気。
失神するように眠るまで続く激しい活動。
自らの中に持つ健全な行動原理を、たとえ不利になるリスクがあろうと自分が置かれた状況よりも優越させていく信念の強さ。
これらは、大きな印象を残してくれます。
ビジュアル面でも…… §
ビジュアル面での面白さもありますね。
最初は巨大ロボットのように出現したタイレンですが、次は車と合体して走るという全く異なったビジュアルを見せてくれて退屈しません。
そして、魅力的な住処 §
そして、魅力的なのはヒロインと弟が住み込む「あやかし堂」です。
罪人となった仙人達が島国に流されて住む場所、という設定はとても面白いですね。
あくまで彼らは大陸の仙人が遠い島国に流されたということですから、そこから空間的な大きな広がりを感じさせます。そして、彼らが罪人であるということが、複雑で重い人間的な奥深さを期待させます。
建物そのものも、いろいろと不思議なところがあって面白いですね。
これは流行りそうだ §
この作品は流行りそうだ、と結論しておきましょう。
というか、どうやら少年サンデーの増刊から本誌に進出することができたらしいので、既に認められ、流行り始めているということでしょうか?
ファンサイト §
既に熱心なファンサイトもあるようです。
蓬莱堂
本書の他の感想 §
感想その2『手作り感覚の熱心な営業活動!?』